2019年7月22日月曜日

【日常雑記 #17】かこさとしの世界展(ひろしま美術館)

ひろしま美術館で開催中の「かこさとしの世界展」を見に行ってきました。加古里子(かこさとし)さんといえば,「だるまちゃん」シリーズや「からすのパンやさん」で有名ですよね。2018年5月に惜しまれつつこの世を去った加古さんですが,その生涯や作品群についてほとんど知らなかったので,この展覧会を見て加古さんのさまざまな側面を知ることができました。




加古さんとセツルメント活動


加古里子さんは,終戦の年である1945年に東京帝国大学(のち東京大学)工学部応用化学科へ入学しています。終戦後大学を卒業すると昭和電工に就職するのですが,そのかたわら,東大のセツルメント運動に関わっていました。川崎の古市場にある三角広場(現在の古市場 第2公園)で,集まってきた子どもたちに,手づくりの紙芝居を読み聞かせたり,子どもたちに絵の手ほどきをするなどをしていたそうです。

加古さんの子どもへの温かい眼差しや,平和を願う強い思いは,このころのセツルメント活動に根ざしているのかなと思います。その後,セツルメント活動で知り合った編集者のなかだちで,福音館書店の松居直(まつい ただし)さんの知遇を得て,絵本作家としてデビューすることになります。


だむのおじさんたち(こどものとも 1959年1月号)


「だむのおじさんたち」は,加古さんの絵本作家としてのデビュー作です。展覧会には原画も展示されていました。この絵本の絵の圧倒的な迫力に驚きます。さらには,子ども向けとは思えないほどの圧倒的な情報量。科学絵本の作家としても知られる加古さんですが,いつも膨大な資料を集め,それをもとに絵本を書かれるのだそうです。

出典: だむの おじさんたち(福音館書店)

ただ,加古さんの科学絵本は,単なる科学的知識の羅列にとどまらない何かがあります。かこさとし公式サイトさんの「編集室より」「だむのおじさんたち」では,加古さんが「この絵本であらわしたい、知っていただきたいとおもう点」は,「大きなダムのことより、それをつくったひとびとのことーーその人々の苦労や、よろこびや、悲しみやーー人間労働というもののすばらしさ」だったのだそうです。この思いが,圧倒的な迫力を持って読むものに迫ってくるのでしょうね。

(参照ページ)
だむのおじさんたち(かこさとし公式サイト)

だるまちゃんとてんぐちゃん(1967年)


加古さんの代表作のひとつ「だるまちゃん」シリーズの第1作。このだるまちゃんのルーツが,ロシアのマトリョーシカにあったことを,展覧会で初めて知りました。

当時,ソビエト連邦の子どもの絵本雑誌を定期購読していた加古さんは,「マトリョーシカ」が主人公の絵本に出会います。そして,日本の民族玩具の話にできないかということで,だるまちゃんの発想に至ったということです。その後,元の絵本をもとに「マトリョーシカちゃん」という絵本も出版されています。

(参照ページ)
「だるまちゃん」と「マトリョーシカちゃん」の関係は?(まるまるだるまちゃん)
http://darumachanblog.fukuinkan.co.jp/2014/06/blog-post_2.html
【連載】第7回 福音館書店 古川信夫さんインタビュー(EhonNavi)
https://www.ehonnavi.net/style/156/8/

出典: だるまちゃんとてんぐちゃん(福音館書店)

ちなみにですが,ロシアのマトリョーシカのルーツは,日本の箱根細工「七福神入れ子人形」だという説があるのだそうです。もしこの説が本当なら,七福神(日本)→マトリョーシカ(ロシア)→だるまちゃん(日本)と里帰りしたことになりますね。

(参照ページ)
マトリョーシカ人形(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%AB%E4%BA%BA%E5%BD%A2

からすのパンやさん(1973年)


とても有名な絵本なので,読んだことのある方も多いことでしょう。この絵本のルーツは,手づくり絵本「カア吉とカア子」で,その後セツルメントの活動の中で仕上げられていったものだそうです(下記参考文献のp.90)。つまり,絵本作家になってから新たに生み出されたお話というよりも,原型はセツルメント時代にあったということですね。

(参考文献)
かこさとしの世界」(平凡社)

出典: からすのパンやさん(偕成社)

この絵本でとても印象的なのは,いろいろなおいしそうなパン,変わったパンが,見開きいっぱいにぎっしりと並んでいるページではないでしょうか。セツルメント時代の「おもちゃの国に朝が来た」(1952年,同掲書 p.42)や,その後の「平和ばんざい,月ばんざい」(1960年,同掲書 p.45)でも,一面にぎっしりとモノを並べる手法がとられています。このようにぎっしり(しかし少々の間隔を開けて)並べることで,子どもたちが一つ一つを指さしながら楽しめるのだということを,セツルメント時代からの子どもたちとの関わりの中で見出されていたのかもしれません。

かこさとしの世界展について




「かこさとしの世界展」は,8月4日までひろしま美術館で,下記の通り開催されています。
https://hiroshima-museum.jp/special/detail/201906_KakoSatoshi.html

場所:ひろしま美術館
会期:2019年6月15日(土)~ 2019年8月4日(日)会期中無休
  9:00~17:00
  9:00~19:00(金曜)

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